COPD・肺気腫
COPD(慢性閉塞性肺疾患)とは、ほとんどの場合でタバコの煙により気管支や肺胞に慢性の炎症が起こり、息切れや咳などの症状が長く続く病気です。一度傷ついた肺は元に戻りにくいのが特徴ですが、COPDの初期は無症状で、自覚のないことが多いです。病気が進行すると、呼吸の効率が悪化して、息切れや、たんの増加などの症状が出てきます。
COPDの症状
COPDの主な症状は、以下の通りです。
- 息切れ: 上り坂や階段を上ったり、あるいは長い時間歩いたりすると息が苦しくなります。
- 咳: 乾いた咳や痰を伴う咳が長期間続きます。
- 痰: 粘り気のある痰が出ることがあります。
- 呼吸困難: 症状が進むと、安静時でも呼吸が苦しくなります。
- 慢性的な疲労感: 十分な睡眠を取っても疲れがとれないことがあります。
これらの症状は、最初は軽いものですが、時間をかけて徐々に悪化していくことが一般的です。
COPDの原因
COPDの主な原因は、長年の喫煙です。喫煙によって気道が炎症を起こし、徐々に狭くなっていくことが、COPDの発症に大きく関わっています。その他には、大気汚染、粉じん、遺伝的な要因なども、COPDの発症リスクを高めることが知られていますが、やっぱり大多数はタバコが原因です。
COPDの診断
長くタバコを吸っていて、長く続く咳や痰・動いた時の息切れ等があればCOPDが疑われます。診断のためには呼吸機能検査が必要です。呼吸機能検査で気流制限、つまり気管支が狭くなっており、息が上手く吐けていないことで、COPDの診断となります。
日本において、COPDの方は500万人以上いると考えられていますが、COPDと診断され治療を受けている実際の患者さんは約22万人と少なく、本来のCOPD患者さんの90%以上が診断されず、治療を受けていない状態にあると言われています。これは、COPDの症状がかぜの症状や歳のせいと考えられてしまっていたり、またあまりCOPDが一般的に知られていないことが原因として考えられています。
COPDは、以前は以下のように分類されていました。
- 慢性気管支炎: 気管支に慢性的な炎症が起こり、痰を伴う咳が特徴です。
- 肺気腫: 肺胞が破壊され、肺が古くなったスポンジのように穴だらけになる病気です。
多くの場合、慢性気管支炎と肺気腫が同時に起こることが多く、現在はこれら二つを合わせてCOPDと呼んでいます。
COPDの治療
COPDの治療は、症状の改善、病気の進行を遅らせること、そして合併症の予防を目的として行われます。
- 禁煙: さらなる進行を予防するため、まず禁煙が重要です。
- 薬物療法:
・気管支拡張薬: 気道を広げ、呼吸を楽にする吸入薬を中心に使用し、気管支を広げることで楽に呼吸ができるようになります。
・吸入ステロイド薬: 気道の炎症が問題となっている場合には、炎症を抑える吸入薬を使用します。
・その他: 痰を切りやすくする薬、内服の気管支拡張薬、細菌感染症に対しての抗菌薬などを適宜使用します。 - 酸素療法:
体の酸素が不足する場合には、在宅酸素療法を行い、酸素を吸入することで症状を改善します。 - リハビリテーション:
呼吸筋を鍛え、呼吸機能を改善する運動療法や、呼吸法指導などを行います。COPDにおいては、日常生活における活動性を保つこと、つまり普段から体を動かす習慣を持ち続けることが非常に重要です。 - 外科療法:
症状が非常に重く、他の治療法で改善が見られない場合、手術が検討されることがあります。
COPDの予防・重症化対策
タバコの煙により壊れてしまった肺を元通りに治すことは難しいです。予防が非常に重要です。
- 禁煙: 喫煙はCOPDの最大の原因であるため、禁煙することが最も効果的な予防策です。
- 定期的な健康診断: COPDそのものや、合併症としての肺がん・間質性肺炎などに関して、早期発見・早期治療につなげることが重要です。
- 予防接種: 気道感染症をきっかけに急にCOPDの症状が悪化したり、またCOPDの方は肺炎自体が重症化しやすくなるため、予防接種が重要です。インフルエンザと肺炎球菌ワクチンが特に重要で、予防接種により入院や感染時の死亡率を下げられることが知られています。
- 併存症への対応: COPDは肺だけでなく全身に影響を及ぼす疾患で、さまざまな生活習慣病とも関連があります。日本の調査研究では、男性のCOPD患者さんの29.2%に高血圧が、12.3%に糖尿病、12.3%に脂質異常症が併存していたと報告されており、これらの併存症への対応も重要になります。
当院での治療方針
COPDは、適切な治療により症状を改善し、生活の質(QOL)を維持することができます。咳や息切れの症状があり、喫煙中もしくは喫煙していた方は、COPDである可能性があり、早めに医療機関を受診し、専門医に相談することをおすすめします。
当院では呼吸器専門医がCOPDの診断のためのレントゲン検査・呼吸機能検査や肺炎球菌等のワクチン接種なども行なっていますので、気になる方はお気軽にご相談ください。また高血圧や糖尿病、脂質異常症で通院されている方で、息切れ・咳・痰の症状が気になる方も、ぜひ一度ご相談ください。
【わかりにくい言葉の補足】
- 気管支: 鼻や口から吸い込んだ空気を肺に運ぶための、体のパイプのような部分です。
- 炎症: 体の一部が赤く腫れて熱を持ち、痛みを伴ったりする状態です。
- 肺胞: 肺の中の小さな袋で、ここで酸素・二酸化炭素のガス交換が行われます。
- COPDの合併症: 心不全、肺がん、間質性肺炎、骨粗鬆症など
- 併存症: ある病気と同時に起きているが、その病気とは関係がない別の病気のことで、併存疾患とも呼びます。