インフルエンザ
🏥 インフルエンザ
はじめに
2025年第46週(11月10日から11月16日まで)の栃木県内全域における定点医療機関当たりのインフルエンザの患者報告数が49.60人となり、警報レベルの基準値である「30.00人」を超えました。県内全域で警報レベルを超えています。
みなさん一人ひとりが感染対策を行い、十分注意して生活してください。
参考:栃木県ホームページ「インフルエンザの患者数が警報レベルを超えました」
https://www.pref.tochigi.lg.jp/e04/welfare/hoken-eisei/kansen/r1houdoukansentantou/2025influkeihou.html
インフルエンザの特徴
インフルエンザは、インフルエンザウイルスが原因で起こる急性の感染症です。一般的な「かぜ」とは異なり、突然38℃以上の高熱、関節の痛みや全身のだるさ(倦怠感)といった強い全身症状を伴うことが特徴的です。
潜伏期間は1~3日間程度が多く、38℃以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛など全身の症状が突然現れます。ほかにも、一般的なかぜと同じように、のどの痛み、鼻水、咳などの症状も見られます。
発病後、多くの方は1週間程度で回復しますが、子どもではまれに急性脳症を、高齢の方や免疫力の低下している方では肺炎を伴うなど重症化することがあるため、注意が必要な疾患です。
特に免疫力が弱い方(高齢者や乳幼児、持病をお持ちの方)は、合併症を引き起こすリスクがあるため、適切な予防と早期の治療を検討する必要があります。
🦠 インフルエンザウイルスの特徴について
インフルエンザウイルスは、主にA型、B型、C型の3種類に分けられ、冬に流行するのは主にA型とB型です。
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A型:最も大きな流行を引き起こすタイプです。ウイルスの構造を頻繁に変える(変異する)性質があり、毎年ワクチンを改良する必要があります。
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B型:A型ほど大規模な流行にはなりにくいですが、毎年流行します。
このウイルスは主に、感染者の咳やくしゃみで飛び散る飛沫(ひまつ)や、ウイルスが付着した手からの接触感染で広がります。
🩺 迅速抗原検査について
インフルエンザの診断は、患者さんの症状・問診、身体診察、周囲の流行状況、そして迅速抗原検査(じんそくこうげんけんさ)の結果を総合的に判断して行います。
迅速抗原検査とは
この検査は、鼻の奥(鼻腔や咽頭)の粘液を綿棒で採取し、インフルエンザウイルスが持つ**抗原(ウイルスの目印となる物質)**があるかどうかを検出するものです。約10~15分で結果が判明する、簡便で迅速な検査です。非常に便利な検査ですが、検査の精度には限界があり、検査結果の解釈には少し注意が必要です。
⚠️ 検査を受ける「タイミング」の重要性【感度の目安】 インフルエンザ迅速検査の感度は、使用するキットや発症からの時間によりますが、一般的に50%〜80%程度と報告されています。この数値は、特に発熱直後(ウイルス量が少ない時)にはさらに低くなります。つまり、感染していても、検査結果が陰性になるケースがあることを示しています。
・感度(かんど):インフルエンザに本当に感染している人を「陽性」と正しく判定する能力。
・特異度(とくいど):インフルエンザに感染していない人を「陰性」と正しく判定する能力。
迅速検査は、特異度が高い一方で、感度が高い検査ではない点に注意が必要です。発熱してから間もない時間帯(特に12時間以内)は、体内のウイルス量がまだ十分な量まで増えていないため、検査をしても「陰性」と誤って出る**偽陰性(ぎいんせい)**になるリスクがより高くなります。
この偽陰性のリスクを避けるため、当院では通常、発熱後12時間~の検査を推奨しています。
【受診時の注意】 迅速検査の結果が陰性であっても、高熱や全身の症状、流行状況を総合的に判断し、感染が強く疑われる場合は、医師がインフルエンザと診断し、抗インフルエンザウイルス薬による治療を開始することがあります。
💊 治療薬について
インフルエンザの治療は、ウイルスの増殖を抑える抗インフルエンザウイルス薬が中心です。この薬は、発症から48時間以内に服用を開始することが、効果を得る上では重要です。
| 薬剤名 | 投与方法 | 特徴・効果 | とくに推奨される患者 |
| オセルタミビル (タミフル) |
内服薬(飲み薬) 1日2回、5日間服用 |
最も古く標準的な薬。豊富なエビデンス。 |
幅広い年齢層 |
| ザナミビル (リレンザ) |
吸入薬 1日2回、5日間吸入 |
気道に直接作用。吸入指導が必要。 | 5歳以上で、咳や喘息がない方。 |
| ラニナミビル (イナビル) |
吸入薬 1回のみ吸入 |
1回の吸入で治療が完了。 | 服薬管理が難しい方。 |
| バロキサビル (ゾフルーザ) |
内服薬(飲み薬) 1回のみ服用 |
新しい作用機序。耐性ウイルスに注意。 | 薬の服用が苦手な方。 |
<抗インフルエンザ薬が推奨される方>
高齢者(65歳以上)、乳幼児、慢性疾患(持病)をお持ちの方は、重症化リスクが高いため、早期に治療薬を開始することが推奨されます。
🧼 感染の予防と対策
インフルエンザは、日頃からの予防対策を徹底することで、感染リスクを下げることができます。
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手洗い:外出から帰宅した後や食事の前などには、石鹸を使って流水で丁寧に手を洗いましょう。
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うがい:帰宅時や人混みから戻った際にうがいをすることで、ウイルスを洗い流す効果が期待できます。
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マスクの着用:人混みへ出かける際は、マスクを着用し、飛沫感染のリスクを軽減しましょう。
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十分な休養と睡眠:睡眠不足や過労は免疫力を低下させます。規則正しい生活を送り、体調を整えましょう。
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環境整備:室内では加湿器を使用するなど適切な湿度(50~60%)を保ち、また定期的な換気を行いましょう。
💉 ワクチンについて
有効性
インフルエンザ予防接種(ワクチン)は、感染を完全に防ぐことはできませんが、肺炎や脳症などの重篤な合併症への効果が期待され、入院・死亡といった重症化を防ぐ効果が高いことが示されています。
推奨されるワクチンの接種回数
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13歳以上の方(成人・高齢者を含む):
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通常、1回接種です。
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生後6ヶ月から13歳未満のお子様:
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十分な免疫をつけるために、原則として2回接種が必要です。
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2回目の接種は、通常、1回目の接種から2~4週間の間隔をあけて行います。
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推奨される接種時期
ワクチンの効果が現れるまでに接種から約2週間かかり、効果の持続期間は約5ヶ月間とされています。
インフルエンザの流行は通常12月頃から始まるため、毎年10月下旬〜遅くとも12月中旬までに接種を完了することが理想的とされていました。そのためこれまでは「11月中に接種しましょう」とお伝えしていましたが、本年(2025年秋-冬)の流行状況をみると、もう少し早い時期に接種を検討したほうが良さそうです。
本年(2025年)の流行状況を踏まえると、10月下旬〜11月上旬の接種をおすすめします。
とくに推奨される対象者
重症化リスクが高い以下のグループの方に、接種が推奨されます。
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高齢者(65歳以上の方)
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乳幼児(生後6ヶ月から)
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慢性疾患(持病)をお持ちの方
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妊婦
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ハイリスクな方と接する機会が多い方(ご家族、介護者など)
💡 よくあるご質問 (Q & A)
Q1. インフルエンザと普通のかぜの見分け方はありますか?
A. 普通のかぜはのどの痛みや鼻水から徐々に始まりますが、インフルエンザは突然の38℃以上の高熱や強い全身症状が急激に現れるのが比較的特徴的です。ですが、症状からは判断が難しい場合も多く、疑わしい場合はご連絡ください。
Q2. 発熱したらすぐに病院に行った方が良いですか?
A. ご自身で(あるいはご家族から見て)少し待てる状況と判断できれば、発熱後12時間~の受診をおすすめします。発熱直後では偽陰性(誤って陰性)となる可能性があるため、まずは必ずお電話でご相談ください。
Q3. 抗ウイルス薬は、必ず飲まなければなりませんか?
A. 重症化リスクの高い方は、早期の服用が推奨されます。医師が患者さんの状態を見て必要と判断した場合は、服用をおすすめします。発症から時間が経過している場合には有効性に乏しく、またもともと大きな持病のない若い方では、必須の治療ではありません。
Q4. 薬を飲んで熱が下がったら、登校や出勤をして大丈夫ですか?
A. 熱が下がって体調が回復しても、感染拡大を防ぐため、自己判断で登校や出勤を再開することはできません。学校および職場ごとに定められた期間が経過する必要があります。
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学校(登校)の場合: 学校保健安全法という法律により、「発症した日を0日として発症後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては3日)を経過するまで」を登校停止期間としています。
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例(小学生以上): 水曜日に発症した場合、最短で翌週の火曜から登校可能。
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この期間は、インフルエンザウイルスの排泄量が多い時期を過ぎることを目的としています。現在は、医師による「治癒証明書」は基本的に不要です。
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職場(出勤)の場合: 法律による一律の定めはありませんが、多くの企業や組織では、学校保健安全法に準じた規定や、独自の就業規則を設けています。一般的には、「解熱後2日間」を目安に出勤を控えるよう指導されます。 必ず、勤務先に確認し、指示に従ってください。
Q5. 熱が下がったら、タミフルの内服はそこで中止して良いですか?
A. 自己判断で中止せず、医師から処方された日数を最後まで飲みきってください。途中でやめると、症状がぶり返したり、薬剤耐性ウイルスが出現したりするリスクがあります。
Q6. こどもがタミフルを飲んで異常行動を起こさないか心配です…
A. これは、多くの親御様が心配される点ですが、現在のところ、タミフル(オセルタミビル)の服用と異常行動との間に、明確な因果関係(直接的な原因と結果の関係)は証明されていません。
【インフルエンザ自体による異常行動】
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インフルエンザウイルスに感染し、高熱が出ている状態自体が、薬の服用に関わらず、異常行動(急に走り出す、意味不明なことを言う、幻覚を見る、飛び降りようとするなど)を引き起こす可能性があることが指摘されています。
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この異常行動は、特に10代前半までの小児・未成年者で報告が多く、発熱から2日以内に起きやすい傾向があります。これは、タミフルなどの抗ウイルス薬を服用し始める時期と重なるため、薬との関連が疑われましたが、薬を服用していない患者さんにも発生しています。
【当院からのお願いと注意点】
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厚生労働省は、インフルエンザの治療薬の種類に関わらず、インフルエンザと診断された小児・未成年者については、発熱から少なくとも2日間は、ご自宅でお子様を一人にしないよう、保護者やご家族に注意を呼びかけています。
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ご自宅のベランダや窓の施錠を徹底するなど、転落等の事故を防止するための安全対策を必ず行ってください。
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異常な言動や行動が見られた場合は、すぐに保護者の方が体を支えるなどして、危険な行為を制止してください。
異常行動の原因はインフルエンザそのものであることをご理解の上、大切なお子様を守るため、適切な安全対策をお願いいたします。
📝 用語集
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急性(きゅうせい):病気が急に発症し、症状が強く出る状態のこと。
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飛沫(ひまつ):咳やくしゃみで飛び散る、目に見えないほどの小さな水滴。
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抗原(こうげん):ウイルスなど、体に入ってきた異物の表面にある「目印」となる物質。
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変異(へんい):ウイルスが遺伝子の情報などを変化させること。
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免疫(めんえき):病原体を排除し、病気から体を守る防御システム。
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合併症(がっぺいしょう):ある病気が原因で、引き続いて起こる別の病気や症状(例:インフルエンザに引き続いて起こる肺炎)。
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偽陰性(ぎいんせい):実際は病気にかかっているのに、検査結果が「陰性」と誤って出てしまうこと。
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慢性疾患(まんせいしっかん):症状が長く続き、すぐに治ることが難しい病気(持病)。
参考:
日本呼吸器学会「インフルエンザ」 https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/a/a-02.html
