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肺炎球菌感染症

肺炎球菌について:重い肺炎や髄膜炎の原因菌 🦠

肺炎球菌は、子どもの中耳炎や大人の肺炎など、さまざまな病気を引き起こす細菌の一種です。特に重症化すると、命に関わる肺炎や髄膜炎(ずいまくえん)*を引き起こす、非常に注意が必要な細菌です。

この細菌は、健康な人の鼻や喉の奥にも住み着いていることがありますが、体の抵抗力が落ちた時に、悪さをして病気を引き起こします。特に高齢の方や、慢性的な病気(糖尿病、心臓病、呼吸器の病気など)を持つ方は、感染症が重症化しやすいため、注意が必要です。

肺炎球菌感染症は、予防接種(ワクチン)によって予防できる病気です。当院では、肺炎球菌感染症のリスクを正しく理解していただき、適切な予防策や治療を提供しています。

肺炎球菌感染症の症状について 🤒

肺炎球菌が引き起こす病気は、感染した場所によって症状が異なります。

肺炎(最も多い)🫁

肺炎球菌は、細菌性肺炎の原因の中で最も多い細菌です。

  • 急な高熱: 悪寒(おかん:ゾクゾクするような寒気)を伴って、比較的急に38℃以上の高熱が出ることがあります。

  • 咳と痰(たん): 咳が出て、粘り気の強い黄色や緑色の痰が出ることがあります。

  • 呼吸困難: 息苦しさを感じるようになり、重症化すると酸素が必要になることもあります。

  • 全身症状: 強いだるさ(倦怠感)、頭痛、関節や筋肉の痛みなどがあります。

髄膜炎(ずいまくえん)<命に関わる🧠>

細菌が脳や脊髄(せきずい)を覆う膜(髄膜)に感染し、炎症を起こす病気です。

  • 発熱: 38℃以上の発熱が一般的です。
  • 激しい頭痛: 強い頭痛を伴う発熱が代表的な症状になります。

  • 嘔吐(おうと): 吐き気や嘔吐を伴うことも多いです。

  • 項部硬直(こうぶこうちょく): 首の後ろが硬くなり、あごを胸につけることが難しくなります。

  • 意識障害: 意識がぼんやりしたり、呼びかけに反応しなくなったりすることもあり、緊急性の高い状態です。

その他の症状👂
  • 中耳炎: 特に子どもで多く見られ、耳の痛みや発熱を引き起こします。

  • 敗血症(はいけつしょう): 細菌が血液に入り込み、全身に広がり、臓器の機能が低下する非常に危険な状態です。

肺炎球菌の特徴

細菌の性質 🦠

肺炎球菌は、正式には「ストレプトコッカス・ニューモニエStreptococcus pneumoniae)」と呼ばれる細菌です。

  • 常在菌(じょうざいきん): この細菌は、健康な人の鼻や喉(のど)に普段から住み着いていることが多く(特に乳幼児の約20~40%)、これを常在菌と呼びます。

  • 莢膜(きょうまく): 肺炎球菌の表面は莢膜*という分厚い膜に覆われています。この莢膜が、体内の免疫細胞(白血球など)から身を守る役割を果たし、細菌の病原性*(びょうげんせい:病気を引き起こす力)を高めています。この莢膜の型(タイプ)は90種類以上あるとされ、ワクチンもこの型に合わせて作られています。

感染経路😷

感染経路は、主に飛沫感染*(ひまつかんせん)接触感染(せっしょくかんせん)*です。

  1. 飛沫感染: 感染者の咳やくしゃみで飛び散った細菌を吸い込むことで感染します。

  2. 接触感染: 細菌が付着した手で、鼻や口を触ることで感染します。

外部から感染することのほかに、もともと自分の喉にいた常在菌が、抵抗力が落ちた隙を突いて、肺や髄膜といった場所へ侵入することににり、感染が成立することもあります。

肺炎球菌に対してのレントゲン検査📸

肺炎球菌が引き起こす肺炎は、重症化しやすいため、胸部X線(レントゲン)検査は診断と治療方針を決める上で極めて重要です。

レントゲン検査の目的
  1. 肺炎の有無の確認

    咳や発熱といった症状が肺炎によるものかどうか、画像で確認します。

  2. 炎症の部位と広がり

    肺炎球菌による肺炎は、肺の一部に濃い影を作る特徴があります。レントゲン検査で、炎症が肺のどの部分に、どの程度広がっているかを正確に把握します。肺炎の広がりや、胸水(肺の周囲に溜まる水)がないかどうかの確認なども重要です。

  3. 他の重篤な病気の鑑別(かんべつ)*

    肺がんや結核など、見逃してはならない他の病気ではないかを確認しするためにも、レントゲン検査は必須です。

肺炎球菌肺炎のレントゲン所見

肺炎球菌性肺炎は、肺の中のある程度の範囲の炎症を起こし、空気が入らなくなる「大葉性肺炎(だいようせいはいえん)*」という形をとりやすい傾向があることが知られています。レントゲン写真やCT画像では、肺の一部が均一で濃い白い影として写ることがあり、これは特徴的な所見となります。

画像所見と、後述するその他の検査結果を総合的に判断し、迅速に治療を開始することが、重症化を防ぐ鍵となります。

肺炎球菌感染症の検査方法について 

肺炎球菌感染症は、迅速な診断と治療開始が非常に重要です。

1. 尿中抗原検査(迅速検査)
  • 検査の仕組み: 尿の中に、肺炎球菌が持つ抗原(こうげん:病原体そのものの一部)*が含まれているかを調べる検査です。

  • 特徴: 検査時間が短く、迅速に検査結果を確認することができます。

2. 喀痰検査(かくたんけんさ)
  • 検査の仕組み: 患者さんが出した痰(たん)の中に、肺炎球菌がいるかどうかを、顕微鏡で観察したり、培養(ばいよう:細菌を増やすこと)したりして調べます。

  • 特徴: 痰の中に肺炎球菌が確認されれば、確実な診断となります。また、培養検査で、どの抗生物質が効果的か(薬剤感受性)を調べることで、治療薬の選択に役立てます。

3. 血液検査
  • 血液検査: 白血球やCRP(炎症反応)の数値を確認し、炎症の強さや程度を把握します。脱水や電解質の異常なども確認します。

  • 細菌の検出: 髄膜炎や敗血症が疑われる場合は、血液を培養し、血液中に細菌がいないかを確認する血液培養を行います。

肺炎球菌感染症の治療 

薬物療法(抗菌薬)💊

肺炎球菌感染症の治療は、主に抗菌薬(抗生物質)の投与が中心となります。

  • 使用される薬: ペニシリン系の抗菌薬を基本として、肺炎球菌に有効な抗菌薬が使われます。

  • 治療のポイント: 肺炎球菌の中には、従来の抗菌薬が効きにくい「耐性菌(たいせいきん:薬が効きにくくなった細菌)」も存在しています。患者さんの重症度、アレルギー、地域の耐性菌の流行状況などを考慮し、適切な抗菌薬を選択する必要があります。

  • 点滴(注射): 重症度が高い場合は、抗菌薬を点滴で投与し治療を行いますが、その際には入院での治療を行うことが一般的です。

安静と対症療法🏠
  • 安静: 十分な休息をとり、体の免疫力(病気と戦う力)を高めることが回復には不可欠です。

  • 酸素投与: 体内の酸素が不足してしまう重症の場合には、より高濃度の酸素を吸入するため、酸素投与が必要になります。

  • 解熱剤・鎮咳薬: 高熱や激しい咳などの症状を和らげるための薬を適宜使用します。

予防接種(ワクチン)による予防💉

肺炎球菌感染症は、ワクチンで予防できる数少ない細菌感染症の一つです。

  • 目的: 肺炎球菌の感染や、重症化を予防します。

  • 種類:

    • 小児用: 2種類あり、定期接種(無料)の対象です。

    • 成人用: 主に高齢者(65歳以上)や、慢性疾患を持つ方を対象としたワクチンがあり、定期接種(一部公費負担)や任意接種(全額自己負担)が推奨されています。

肺炎球菌ワクチン接種は、特に肺炎や髄膜炎といった重い病気のリスクを大きく下げます。ご自身の接種歴や接種対象についてご不明な点があれば、お気軽にご相談ください。

Q&A(よくある質問と回答) 💡

Q1:肺炎球菌は、健康な人でも喉にいるのですか?

A1:はい、その通りです。

肺炎球菌は、特に乳幼児の鼻や喉(のど)の奥に、常在菌(じょうざいきん:普段から体にいる菌)として住み着いていることが珍しくありません。健康な状態では悪さをしないのですが、風邪などで体の抵抗力(病気に打ち勝つ力)が落ちた時に、肺や血液などの本来いない場所に侵入し、肺炎や髄膜炎(ずいまくえん)といった重い病気を引き起こします。

自分の喉にいる菌が原因で病気になることもあるため、体調管理ワクチン接種による予防が重要になります。

Q2:肺炎球菌による肺炎は、普通の風邪とどう違うのですか?

A2:症状の「激しさ」と「重症化のリスク」が大きく異なります。

一般的な風邪はウイルスが原因で、多くは自然に治りますが、肺炎球菌による肺炎は細菌感染が原因です。

  • 症状の激しさ: 急な高熱や、粘り気の強い黄色や緑色の痰を伴う激しい咳が出ることが多く、風邪と比べて症状が急激で重い傾向があります。

  • 重症化のリスク: 呼吸困難(息苦しさ)や胸の痛みを伴うことが多く、**命に関わる重篤な状態(敗血症や髄膜炎など)**に進行するリスクがあるため、自己判断せずに医療機関での迅速な治療が必要です。

「いつもと違う、急にひどい症状だ」と感じたら、すぐに受診してください。

Q3:抗菌薬(抗生物質)を飲んでいるのに、熱が下がりません。薬が効いていないのでしょうか?

A3:効きにくい「耐性菌(たいせいきん)」の可能性や、重症化している可能性があります。

肺炎球菌の中には、以前からよく使われてきた一部の抗菌薬が効きにくい耐性菌が増えています。また単純な肺炎だけでなく、肺化膿症*や膿胸*など、排出しにくい膿がたまってしまっている可能性もあります。

薬を飲み始めて2~3日経っても症状が改善しない、または悪化している場合は、その治療が失敗する可能性があり、治療方針をもう一度検討する必要があるかもしれません。

当クリニックでは、患者さんの状態を詳しく確認し、耐性菌にも有効な、より強力な抗生物質への切り替えや、入院による点滴治療(静脈注射)を検討します。

Q4:肺炎球菌ワクチンを接種していれば、肺炎には絶対にかかりませんか?

A4:残念ながら「絶対」ではありませんが、重症化を大きく防げます。

肺炎の原因菌は、肺炎球菌以外にもインフルエンザ菌やマイコプラズマなど様々な種類があります。肺炎球菌ワクチンは、そのうち肺炎球菌による感染症に特化して予防効果を発揮します。

ワクチンを接種しても、他の菌やウイルスによる肺炎にかかる可能性はありますが、特に肺炎球菌による重症化(重い肺炎、髄膜炎など)のリスクを大きく下げられることが証明されています。特に高齢の方や持病のある方には、インフルエンザワクチンと合わせての接種を強く推奨しています。

Q5:肺炎球菌ワクチンは何回接種すればよいですか?また、どのワクチンを選べばよいですか?

A5:年齢やもともとの患者さんの状態によって異なります。

成人の方の場合、主に以下の2種類のワクチンがあります。

ワクチンの種類 接種回数 対象と特徴
多糖体ワクチン 1回接種(5年以上の間隔で再接種) 多くの型に対応し、定期接種*(公費負担あり)の対象となることが多いワクチンです。
結合型ワクチン 1回接種(再接種の必要なし) 免疫をより強力に、長期的に維持する効果が期待でき、多糖体ワクチンと組み合わせて使うこともあります。成人では任意接種*の対象です。

当クリニックでは、患者さんの年齢、過去の接種歴、健康状態(持病の有無)を伺い、最適なワクチンの組み合わせと接種スケジュールをご提案しています。接種をご希望の方は、お気軽にご相談ください。


*分かりにくい専門用語と補足説明📝
専門用語 ふりがな 注釈(補足説明)
定期接種 ていきせっしゅ 法律で定められ、国や自治体が強く推奨している予防接種。原則として対象年齢内であれば**公費(無料または一部自己負担)**で受けられます。(例:小児の肺炎球菌ワクチン、高齢者の肺炎球菌ワクチンの一部)
任意接種 にんいせっしゅ 個人が希望して受ける予防接種。接種の判断は個人に委ねられ、原則として全額自己負担となります。(例:高齢者の肺炎球菌ワクチンのうち、定期接種の対象外となる接種など)
髄膜炎 ずいまくえん 脳や脊髄(せきずい)を覆う膜の炎症。重症化しやすい病気です。
肺化膿症 はいかのうしょう 肺炎によって肺の組織が破壊され、膿(うみ)がたまって穴が空いた状態(肺膿瘍:はいのうよう)になること。重篤な状態です。
膿胸 のうきょう 肺を包む膜(胸膜)の間に膿(うみ)がたまる病気。呼吸困難や胸の痛みを伴い、治療には胸に管を入れる処置が必要になることがあります。
抵抗力 ていこうりょく 病気の原因と戦い、体を守る力(免疫力と同じ意味です)。
悪寒 おかん ゾクゾクするような強い寒気のこと。
倦怠感 けんたいかん 体がだるく、疲れやすいこと。
項部硬直 こうぶこうちょく 首の後ろが硬くなり、あごを胸につけることが難しくなる症状。髄膜炎の特徴的な症状の一つです。
敗血症 はいけつしょう 細菌が血液に入り込み、全身に広がり、臓器の機能が低下する、非常に危険な状態。
常在菌 じょうざいきん 普段から健康な人の体(鼻や喉など)に住み着いている細菌。
莢膜 きょうまく 細菌の表面を覆う分厚い膜。肺炎球菌の病原性(病気を引き起こす力)を高める原因となります。
病原性 びょうげんせい 病気を引き起こす力。
飛沫感染 ひまつかんせん 咳やくしゃみで飛び散るしぶき(飛沫)を通しての感染。
接触感染 せっしょくかんせん 細菌に触れた後、その手で口や鼻を触ることによる感染。
鑑別 かんべつ 複数の似た病気の中から、正しい病気を見分けて区別すること。
大葉性肺炎 だいようせいはいえん 肺炎球菌性肺炎に特徴的な、肺の一部が集中して炎症を起こす肺炎の形。
抗原 こうげん 病原体そのもの、または病原体が持つ物質の一部。
喀痰検査 かくたんけんさ 患者さんが出した痰(たん)を採取して行う検査。
培養 ばいよう 採取した検体に含まれる細菌を人工的に増やして調べること。
薬剤感受性 やくざいかんじゅせい 細菌に対して、どの薬(抗生物質)が効くか(効きやすいか)を調べること。
耐性菌 たいせいきん 薬(抗生物質)が効きにくくなった、または効かなくなった細菌。
対症療法 たいしょうりょうほう 病気の原因ではなく、出ている症状(熱や咳など)を和らげるための治療。

 

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