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マイコプラズマ

マイコプラズマについて 〜長引く咳の原因〜

マイコプラズマは、主に呼吸器*に感染症を引き起こす、非常に小さな細菌の一種です。
特に「マイコプラズマ肺炎」として知られており、お子さんから大人まで幅広い世代に見られます。このページでは肺炎の原因となる、「マイコプラズマ・ニューモニエ」に関して記載しています。

この感染症の特徴は、一般的な風邪とは異なり、症状がしつこく長引くことです。また、マイコプラズマは、多くの細菌感染症に使われる一般的な抗生物質(抗菌薬)*が効きません。マイコプラズマは細菌に分類されるのですが、他の細菌とは違い、細胞を覆う細胞壁(さいぼうへき)*を持っていないため、細胞壁を標的にする一般的な抗菌薬が効果を発揮できないためです。細菌としては小さく、細胞壁もなく、ウイルスっぽい特徴のある、そんなちょっと変わった細菌がマイコプラズマなのです。

当クリニックでは、呼吸器専門医の診断に基づき、マイコプラズマに有効な治療を提供しています。
長引く咳でお困りの方は、お早めにご相談ください。

マイコプラズマの症状について

マイコプラズマ感染症は、発症から治癒までの経過に特徴があります。

初期症状😷

症状は風邪と似ていますが、比較的ゆっくりと始まることも多いです。

  • 発熱: 微熱程度で済む場合もあれば、38℃以上の高熱が出る場合もあります。

  • 全身の倦怠感(だるさ) : 体が重く、疲れやすい状態が続きます。

  • 頭痛、喉の痛み: 風邪と同様の症状が現れることがありあmす。

特徴的な症状:遷延する咳💨

マイコプラズマ感染で特徴的なのは、咳(せき)が長く続くことです。これを遷延(せんえん)する咳(なかなか治らない咳)と呼びます。

  • 咳の性質: 感染初期は痰(たん)の絡まない乾いた咳(空咳)が中心です。

  • 咳の悪化: 時間の経過とともに咳は強くなり、特に夜間や早朝に激しくなる傾向があります。

  • 持続期間: この激しい咳が数週間から1ヶ月以上続くことも珍しくなく、日常生活に支障をきたす原因となります。

肺炎への進行🏥

マイコプラズマ肺炎は比較的軽症となることが多いです。しかし、高齢の方や免疫力(めんえきりょく:病気と戦う力)が低下している方などでは、症状が進行して呼吸困難(息苦しさ)や胸の痛みを伴う重度の肺炎になるリスクもあります。咳が長引いたり、息苦しさを感じたりする場合は、速やかな医療機関の受診をおすすめします。

マイコプラズマの感染経路と潜伏期間

肺炎や気管支炎を引き起こすマイコプラズマ感染症は、マイコプラズマ属のうち、「マイコプラズマ・ニューモニエMycoplasma pneumoniae)」という細菌によって引き起こされます。

感染経路🦠

感染経路は、主に飛沫感染*(ひまつかんせん:咳やくしゃみで飛び散るしぶきによる感染)接触感染*(せっしょくかんせん:手で物に触れた後に口や鼻を触ることによる感染)です。

  1. 飛沫感染: 感染者が咳やくしゃみをした際に、細菌を含んだ細かい水分(飛沫)が飛び散り、それを吸い込むことで感染が成立します。

  2. 接触感染: ドアノブや手すりなど、感染者が触れた物に付着した細菌を、別の人が触り、その手で目や鼻、口を触ることで感染します。

潜伏期間と集団感染🕰

マイコプラズマに感染してから症状が出るまでの期間(潜伏期間:せんぷくきかん)は、2〜3週間と比較的長いのが特徴です。このため、感染源を特定することが難しく、知らないうちに集団の中で広がってしまうことがあります。学校や幼稚園、家庭内など、集団生活の場での流行に注意が必要です。
マイコプラズマは症状が比較的軽いことがあり、感染した本人が気づかずに学校などの集団生活での活動を続けることで、周囲に感染を広げやすいことから「歩く肺炎」と呼ばれることもあります。

マイコプラズマの検査について

マイコプラズマに関する一般的な検査方法に関して、以下に記載します。

1. 血液検査(抗体検査)
  • 検査の仕組み: 血液を少量採取し、体内でマイコプラズマと戦うために作られた物質(抗体)の量を調べます。

  • IgM抗体(アイジーエムこうたい): 感染した比較的初期に作られ始める抗体です。このIgM抗体が高値であれば、「最近マイコプラズマに感染した可能性が高い」と判断されます。

  • ペア血清(ペアけっせい)検査: 症状が出てから早い時期と、その1〜2週間後に再度採血を行い、抗体価*上昇を確認することで、感染を確定させます。

2. 迅速診断キット(簡易検査)
  • 検査の仕組み: 喉の奥から検体を綿棒で採取し、マイコプラズマの抗原(こうげん:病原体そのもの)を検出します。

  • 感度と特異度: キットによって差がありますが、多くの場合で感度(かんど:病気の人を正しく陽性と判定する確率)が低めになる傾向があります。マイコプラズマに関しては、病気にかかっていても、正しく陽性が出ない(偽陰性となる)ことが、迅速抗原検査の問題点です。さらに感染初期は、病原体の量が少なく、偽陰性も多くなりやすいです。
    マイコプラズマに限った話ではありませんが、感染症に関する迅速診断キットの結果(陽性/陰性)は、そのまま感染症の診断とならない場合もあり、結果の解釈には注意が必要です。

  • 活用方法: 診断の一助となりますが、結果は症状や他の検査結果と組み合わせて総合的に評価することが重要です。

3. 遺伝子検査(PCR法・LAMP法など)
  • 検査の仕組み: 喉の奥などから採取した検体の中に、マイコプラズマの遺伝子(DNA)があるかどうかを増やして調べる方法です。

  • 特徴: 感染のごく初期から高い精度でマイコプラズマを検出することができますが、結果が出るまでにやや時間がかかる場合があります。一般的なクリニックや病院では院内で検査が施行できず、外注検査となるために日数がかかります。

どの検査を行っても一長一短であり、長所と短所があります。また診断精度100%の検査はないため、病歴(これまでの経過)や症状、身体所見、レントゲン所見、流行状況などを組み合わせて総合的に診断する必要があります。

マイコプラズマに対してのレントゲン検査

長引く咳の診断において、胸部X線(レントゲン)検査は、肺の状態を把握するために欠かせません。
以下の二つの理由でレントゲン検査は重要な検査となります。

レントゲン検査の目的📸
  1. 肺炎の評価: 咳の症状が続いている場合、肺に炎症が起きているかどうか(肺炎になっているかどうか)を画像で確認します。レントゲンにより、肺炎があるのかないのか、抗菌薬が本当に必要なのか状態であるかを確認することができます。

  2. 他の呼吸器疾患との鑑別(かんべつ:区別すること): とくに長引く咳など、マイコプラズマを疑う状況では、結核(けっかく)や他の重篤な肺の病気など、マイコプラズマ以外の病気の可能性がないか、しっかり鑑別することが非常に重要です。

マイコプラズマ肺炎のレントゲン所見🩻

マイコプラズマ肺炎のX線所見として、肺への空気の通り道である気管支*に沿った肺炎の所見(気管支肺炎)が特徴的です。

ただし、症状が軽い場合など、場合によってはレントゲン写真にはっきりとした変化が現れないこともあります。そのため、画像所見だけでなく、検査結果や症状の経過を総合的に判断します

マイコプラズマの治療

マイコプラズマ感染症の治療は、主に薬物療法(やくぶつりょうほう:薬による治療)と対症療法(たいしょうりょうほう:症状を和らげる治療)が中心です。

薬物療法(抗生物質)💊

マイコプラズマには一般的な抗生物質が効かないため、以下の特定の抗生物質が使用されます。

  1. マクロライド系: マイコプラズマの増殖を抑える働きがあり、特に小児の治療で第一選択薬として広く使われます。

  2. テトラサイクリン系: 主に学童期以降〜成人に使用します。マクロライド系抗生物質が効かない耐性*(たいせい:薬が効きにくくなること)マイコプラズマに対しても効果が期待されます。

  3. ニューキノロン系: 成人で症状が重い場合や、他の薬が使用できない場合に検討されます。

 耐性マイコプラズマへの対応⚠️

近年、マクロライド系抗生物質が効きにくい耐性マイコプラズマが増加しています。
もし、薬を服用しても症状が数日間(基本的には3日間)改善しない場合は、耐性菌の可能性を考慮し、他の系統の抗生物質に変更して治療を継続する必要があります。
また重症化が疑われる場合には、近隣の高次医療機関と適切なタイミングで連携して治療を行います。
当クリニックでは、患者さんの状態を慎重に観察し、適切な治療法・薬剤を選択します。

 対症療法と安静🛌

薬による治療と並行して、体の回復をサポートすることも有効です。

  • 解熱剤(げねつざい): 高熱による消耗を防ぐために使用します。

  • 鎮咳薬(ちんがいやく): 激しい咳を抑え、十分な睡眠休息がとれるようにします。

  • 安静: 十分な休息水分補給を心がけ、体力回復に努めてください。

当院での対応

当院では、肺炎を疑うような症状や経過の場合には、まず積極的にレントゲン検査を行っています。抗原検査の結果だけでなく、流行状況と合わせてマイコプラズマ感染症が疑われる場合には、治療効果のある抗菌薬での治療を行っています。
長引く咳はつらいものですが、適切な診断と治療で必ず改善します。咳が続く、熱が下がらないなど、少しでも不安を感じた場合は、呼吸器の専門である当クリニックへご相談ください。

*分かりづらい専門用語とその解説
専門用語 読み方 注釈(補足説明)
呼吸器 こきゅうき 肺や気管など、空気を取り込むための器官。
細菌 さいきん 細菌感染症の原因となる、非常に小さな生物。
抗生物質 こうせいぶっしつ 細菌を倒すために使われる薬(抗菌薬)のこと。
細胞壁 さいぼうへき 多くの細菌が持っている、細胞を覆う「鎧(よろい)」のような固い壁。
全身の倦怠感 ぜんしんのけんたいかん 体全体がだるく、疲れやすいこと。
遷延する咳 せんえんするせき なかなか治らず、長引く咳のこと。
免疫力 めんえきりょく 病気の原因となるもの(病原体)と戦い、体を守る力。
飛沫感染 ひまつかんせん 咳やくしゃみで飛び散るしぶき(飛沫)を通しての感染。
接触感染 せっしょくかんせん 病原体に直接触れた後、手で口や鼻を触ることによる感染。
潜伏期間 せんぷくきかん 感染してから症状が出るまでの期間。
抗体 こうたい 体内で病原体と戦うために作られる物質。
IgM抗体 アイジーエムこうたい 感染した比較的初期に作られ始める抗体の一種。
抗体価 こうたいか 血液中の抗体の量を示す数値。
抗原 こうげん 病原体そのもの(この場合はマイコプラズマ)を指す。
感度 かんど 本当に病気にかかっている人を、正しく「陽性」と判定できる確率。
偽陰性 ぎいんせい 本当は病気にかかっているのに、誤って「陰性」と出てしまうこと。
鑑別 かんべつ 複数の似た病気の中から、正しい病気を見分けて区別すること。
気管支 きかんし 肺の中にある、空気の通り道のパイプ。
陰影 いんえい レントゲン写真に写る影(かげ)のことで、炎症や病変の目印となる。
薬物療法 やくぶつりょうほう 薬による治療のこと。
対症療法 たいしょうりょうほう 病気の原因ではなく、出ている症状(熱や咳など)を和らげるための治療。
耐性 たいせい 薬(抗生物質)が効きにくくなること、または効かなくなること。
解熱剤 げねつざい 熱を下げるための薬。熱さまし。
鎮咳薬 ちんがいやく 咳を抑えるための薬。咳どめ。

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